寒暖の差に驚く
油ぎった顔を見て
照りかえる蛍光灯の方に振り向いた
収束していく今日に気づいて
体はただ重みを増していく
比重を増した体は建物のなかへ
油は蒸し暑い都会へと分離する
さらりと澄んでいるのはこちらであるはずが
実はただ沈澱している
ひかるひかるぬらぬらと
内側から見る油も蛍光灯に揺られて
七色に光っている
油ぎった顔を見て
照りかえる蛍光灯の方に振り向いた
収束していく今日に気づいて
体はただ重みを増していく
比重を増した体は建物のなかへ
油は蒸し暑い都会へと分離する
さらりと澄んでいるのはこちらであるはずが
実はただ沈澱している
ひかるひかるぬらぬらと
内側から見る油も蛍光灯に揺られて
七色に光っている
昨日は青のスクリーン
今夜は白のスクリーン
説明はありません、答えもありません
あなたが対峙しているのは
無意味な一色のスクリーン
始まった本編は真っ白
音はなくひたすらに、目の前には白いスクリーン
視界に昔からある黒い点を端に追い詰めれば
ほらまた新しい黒い点が出てくる
目を閉じるなら、青い残像が支配する
白いスクリーンを前に
あなたの視覚はあまりに無力
ここでは人は裏返し
光の前に内側が焼きだされてしまう
網膜も血管も細胞も
光の前では追い詰めても現れる黒い点
体の奥を反映する
糸くずに近い黒い点
昨日は青のスクリーン
今夜は白のスクリーン
今夜は白のスクリーン
説明はありません、答えもありません
あなたが対峙しているのは
無意味な一色のスクリーン
始まった本編は真っ白
音はなくひたすらに、目の前には白いスクリーン
視界に昔からある黒い点を端に追い詰めれば
ほらまた新しい黒い点が出てくる
目を閉じるなら、青い残像が支配する
白いスクリーンを前に
あなたの視覚はあまりに無力
ここでは人は裏返し
光の前に内側が焼きだされてしまう
網膜も血管も細胞も
光の前では追い詰めても現れる黒い点
体の奥を反映する
糸くずに近い黒い点
昨日は青のスクリーン
今夜は白のスクリーン
爪やや伸びていて
髪もややのびている
睫毛には黄色く眼脂がまぶされ
日の光は眼脂を透かして虹色に見える
不調な体を震わせて
虹色の光から逃げるように
枕の匂いを吸い込んだ
不快な朝の匂いが
空腹を思い出させる
ねている体はただ、肉、骨、脂
体から離れれば腐敗してしまう
ならば肉体を離れて
腐敗する体を観察しよう
アップルパイを食べながら
髪もややのびている
睫毛には黄色く眼脂がまぶされ
日の光は眼脂を透かして虹色に見える
不調な体を震わせて
虹色の光から逃げるように
枕の匂いを吸い込んだ
不快な朝の匂いが
空腹を思い出させる
ねている体はただ、肉、骨、脂
体から離れれば腐敗してしまう
ならば肉体を離れて
腐敗する体を観察しよう
アップルパイを食べながら
痒くしなければ
誰にも気づかれずに血を吸えるのに
それだけではつまらない
舐めた証を刻んでいくのだ
唾液を注入することで
征服したことを証明する
私が痒みを与えたから
あなたは不快な痒みに支配される
こんな小さな私でも
あなたをわずかに支配できる
こんな不気味な私でも
心と腹が満たされる
誰にも気づかれずに血を吸えるのに
それだけではつまらない
舐めた証を刻んでいくのだ
唾液を注入することで
征服したことを証明する
私が痒みを与えたから
あなたは不快な痒みに支配される
こんな小さな私でも
あなたをわずかに支配できる
こんな不気味な私でも
心と腹が満たされる
私は緞帳の表の赤い色を
演者は緞帳の裏の黒い色を見ている
それが開けば演者も私も
同じ空間に居るはずなのに
どこまで値段の高い席に行っても
あの舞台の上には入れない
ああ、照明が作りだすチンダル現象は
幻想的に舞台を彩る
才能をぶつけ合って勝負をするものたちを
照らしていくのだ
わたしはもうあの眩しいばかりの照明に
目を細めることは出来ない
ただ演者の道程を想像して涙するだけ
傍観者は完成された舞台に
文句を放つ隙間を探すだけである
演者は緞帳の裏の黒い色を見ている
それが開けば演者も私も
同じ空間に居るはずなのに
どこまで値段の高い席に行っても
あの舞台の上には入れない
ああ、照明が作りだすチンダル現象は
幻想的に舞台を彩る
才能をぶつけ合って勝負をするものたちを
照らしていくのだ
わたしはもうあの眩しいばかりの照明に
目を細めることは出来ない
ただ演者の道程を想像して涙するだけ
傍観者は完成された舞台に
文句を放つ隙間を探すだけである
背比べに意味があると信じるから
どんぐりたちは背比べ
頭の先がミツバチの針ほど先に出れば
見渡す世界は違うだろうと
わずかなつま先の長さを競って
生まれたままの運命を否定する
背伸びした足がバランスを崩して
床に寝そべったその日に
となりにも横になったどんぐりがいることに気づく
一度横になったどんぐりは起き上がらない
横になればみんな
目線は等しいと気づくから
どんぐりたちは背比べ
頭の先がミツバチの針ほど先に出れば
見渡す世界は違うだろうと
わずかなつま先の長さを競って
生まれたままの運命を否定する
背伸びした足がバランスを崩して
床に寝そべったその日に
となりにも横になったどんぐりがいることに気づく
一度横になったどんぐりは起き上がらない
横になればみんな
目線は等しいと気づくから
昼間の都会は比べてしまうから
私は個室の夜に逃込む
ここはおそらくみんなぐったりと
四肢を投出して娯楽に興じているから
比べられない堕落を共有する
そして時計が日付を刻むころ
夜を求めて外へ飛び出す
そのころには比べる物も少ないから
ようやく屋外の清らかな空気に癒される
人を恐れる心に
さわやかな朝は訪れない
私は個室の夜に逃込む
ここはおそらくみんなぐったりと
四肢を投出して娯楽に興じているから
比べられない堕落を共有する
そして時計が日付を刻むころ
夜を求めて外へ飛び出す
そのころには比べる物も少ないから
ようやく屋外の清らかな空気に癒される
人を恐れる心に
さわやかな朝は訪れない
あぶれた男達が夢見るのは
従順なメイドと男色と近親相姦
ポルノ映像が切り替わる合間に
黒い液晶画面に映る薄ぼけた表情の男に驚く
青い光が戻ると安心し
ひがな一日性欲と向き合う
世間は悲しい性欲に充満している
淫猥な設定が一人歩きし
芸術はそれに迎合していく
翻弄された芸術はさびしく行き場を失っている
女を守る大義も失った
酒に浸る意味も失った
そこに芸術は生まれない
残るのはただ悲しい性欲だけ
あぶれた男達が夢見るのは
従順なメイドと男色と近親相姦
従順なメイドと男色と近親相姦
ポルノ映像が切り替わる合間に
黒い液晶画面に映る薄ぼけた表情の男に驚く
青い光が戻ると安心し
ひがな一日性欲と向き合う
世間は悲しい性欲に充満している
淫猥な設定が一人歩きし
芸術はそれに迎合していく
翻弄された芸術はさびしく行き場を失っている
女を守る大義も失った
酒に浸る意味も失った
そこに芸術は生まれない
残るのはただ悲しい性欲だけ
あぶれた男達が夢見るのは
従順なメイドと男色と近親相姦
その感触をしゃぶり尽くそうと
彼女のふとももに噛み付いた
唾液に濡れた皮膚は
見事、歯型に凹んでいた
指先でくぼみを確かめると
くすぐったそうにこちらを見た
その感触をしゃぶり尽くそうと
今度は首筋に噛み付いた
犬歯は筋を分けて動脈に達したから
中身がぴゅうと噴出した
指先で止めようとすると
それが感触の正体だという
ならばその感触をしゃぶり尽くそうと
赤い中身に吸い付いた
吸い尽くしたあとには
あの感触はもう消えていた
彼女のふとももに噛み付いた
唾液に濡れた皮膚は
見事、歯型に凹んでいた
指先でくぼみを確かめると
くすぐったそうにこちらを見た
その感触をしゃぶり尽くそうと
今度は首筋に噛み付いた
犬歯は筋を分けて動脈に達したから
中身がぴゅうと噴出した
指先で止めようとすると
それが感触の正体だという
ならばその感触をしゃぶり尽くそうと
赤い中身に吸い付いた
吸い尽くしたあとには
あの感触はもう消えていた
汚れ行く部屋の絵日記
2009年8月18日 日常夏休みに書くことが何もなかった
というより書いて出すほどの出来事がなかったから
日ごとに汚れ行く部屋の絵日記を出した
普段よりも部屋に居る時間が長いから
汚れるスピードは早すぎて
4日目以降は飽和状態となった
散乱する衣服が足の踏み場を奪って
池に浮かぶ石の通路のように
わずかに見えているフローリングの床を
表現するのに一苦労だった
あれから十数年
引き出しの隅から出した絵日記と
なんら変わらない情景がいまここにある
というより書いて出すほどの出来事がなかったから
日ごとに汚れ行く部屋の絵日記を出した
普段よりも部屋に居る時間が長いから
汚れるスピードは早すぎて
4日目以降は飽和状態となった
散乱する衣服が足の踏み場を奪って
池に浮かぶ石の通路のように
わずかに見えているフローリングの床を
表現するのに一苦労だった
あれから十数年
引き出しの隅から出した絵日記と
なんら変わらない情景がいまここにある
たくさんの人が賛同してくれるはずと
革命の詩を詠ったが
手を叩いているのは一人だけ
あとはみな目端で軽蔑するだけだった
たくさんの人が軽蔑するだろうと
街頭で全裸になってみたが
たくさんの人が手を叩いて
私の勇気を賞賛した
おだてられた私は木に登り
やれ裸踊り やれ逆立ちと
民衆の要求に答えるが
しかし手を滑らせて落下すると
だれも助けには来なかった
重力に負けた哀れな裸の男を
大衆は目端で軽蔑するだけだった
革命の詩を詠ったが
手を叩いているのは一人だけ
あとはみな目端で軽蔑するだけだった
たくさんの人が軽蔑するだろうと
街頭で全裸になってみたが
たくさんの人が手を叩いて
私の勇気を賞賛した
おだてられた私は木に登り
やれ裸踊り やれ逆立ちと
民衆の要求に答えるが
しかし手を滑らせて落下すると
だれも助けには来なかった
重力に負けた哀れな裸の男を
大衆は目端で軽蔑するだけだった
翌日が恐ろしくて
なんだか寝ないで居た朝には
やけに空は赤く遠くに見えていた
台風は過ぎていった
地震ももう収まった
勘違いした日暮は
朝日に向かって日暮れを予告し
海辺は異様に情景の食い違いをみせた
余震はなくなった
みんなもう寝静まった
昼夜が逆転した世界では
東の日光の質感も
日暮れの哀愁を漂わせる
その物悲しい違和感は
私のいびつな価値観だろうか
ああ、台風も地震も
まだここにいてくれ
なんだか寝ないで居た朝には
やけに空は赤く遠くに見えていた
台風は過ぎていった
地震ももう収まった
勘違いした日暮は
朝日に向かって日暮れを予告し
海辺は異様に情景の食い違いをみせた
余震はなくなった
みんなもう寝静まった
昼夜が逆転した世界では
東の日光の質感も
日暮れの哀愁を漂わせる
その物悲しい違和感は
私のいびつな価値観だろうか
ああ、台風も地震も
まだここにいてくれ
白いタイルを背景に
今年も咲きます陰気な花
薄ぼけた紅色の花弁をもつ
オオスカシバがあ好む花
建物の隅の喫煙所からは
去年のあの日の風景を
同じ角度から伺います
盆の空虚な都会では
蝉声、コンクリ、陰気な花が
多くの割合を占めているから
おそらく時間の概念は
わずかにねじれてゆくのでしょう
壊れ行く風景は
ぼとりと落ちる陰気な花
地熱に焼かれてジーワ、ジーワと音を立てる
今年も咲きます陰気な花
薄ぼけた紅色の花弁をもつ
オオスカシバがあ好む花
建物の隅の喫煙所からは
去年のあの日の風景を
同じ角度から伺います
盆の空虚な都会では
蝉声、コンクリ、陰気な花が
多くの割合を占めているから
おそらく時間の概念は
わずかにねじれてゆくのでしょう
壊れ行く風景は
ぼとりと落ちる陰気な花
地熱に焼かれてジーワ、ジーワと音を立てる
冷房が効いた部屋にいたから
湿気に会うのは今日初めて
湿気よ こんばんわ
部屋に居るときは蛍光灯、蛍光灯、性欲
じっとり腿裏の汗、くそ熱い脛毛、髪の毛
ああ そういえばあの時も会いましたか
これは失礼
気持ち良いことの裏は
いつも気持ちの悪い湿気にまみれている
湿気に会うのは今日初めて
湿気よ こんばんわ
部屋に居るときは蛍光灯、蛍光灯、性欲
じっとり腿裏の汗、くそ熱い脛毛、髪の毛
ああ そういえばあの時も会いましたか
これは失礼
気持ち良いことの裏は
いつも気持ちの悪い湿気にまみれている
とかげはまた生えてくると高をくくって
尻尾を切り離して逃げました
しかし待てども待てども生えては来ませんでした
一度目も二度目も生えてきました
だからとかげは高をくくっていましたが
三度目は生えては来ませんでした
とかげは皮の水面に映る自分の姿に落胆しました
ああ、あんなに美しかった私の尻尾
長くそしてはりのある私の尻尾
これではまるで未熟な蛙ではないか
生えてこうい 生えてこうい
そうしてとかげは足の付け根の筋肉をヒクつかせながら
頭を抱えて尻尾が生えるのを待ちました
あまりに悩んで石ころに頭をぶつけました
それでも尻尾は生えてきませんでした
ああ、こんなに悩むのならあの時逃げなければよかった
尻尾が再び生えるのならばどんなことでも致しましょう
とかげは水面に歪んだ自分の顔を見て思いつきました
ああ、これならば悩まなくてすむ…
とかげは首の筋肉をヒクヒクと収縮させると
自分の首を切り落としました
力を失った首と胴体は水面に落ちてちゃぷちゃぷと
二つに壊れて流れていきました
尻尾を切り離して逃げました
しかし待てども待てども生えては来ませんでした
一度目も二度目も生えてきました
だからとかげは高をくくっていましたが
三度目は生えては来ませんでした
とかげは皮の水面に映る自分の姿に落胆しました
ああ、あんなに美しかった私の尻尾
長くそしてはりのある私の尻尾
これではまるで未熟な蛙ではないか
生えてこうい 生えてこうい
そうしてとかげは足の付け根の筋肉をヒクつかせながら
頭を抱えて尻尾が生えるのを待ちました
あまりに悩んで石ころに頭をぶつけました
それでも尻尾は生えてきませんでした
ああ、こんなに悩むのならあの時逃げなければよかった
尻尾が再び生えるのならばどんなことでも致しましょう
とかげは水面に歪んだ自分の顔を見て思いつきました
ああ、これならば悩まなくてすむ…
とかげは首の筋肉をヒクヒクと収縮させると
自分の首を切り落としました
力を失った首と胴体は水面に落ちてちゃぷちゃぷと
二つに壊れて流れていきました
けえけえけけ
ひどく蒸し暑い真夏の夜
扇風機の傍で目を閉じて寝ていると
飼い猫が毛玉を吐いている
けえけえけっけ
目を潤ませてアアもう苦しそうに
褐色の液体に濡れた毛玉を吐き出した
そんな時に電話があって
母が死んだと知らされた
あのとき聞いた飼い猫の声は
遠くの母の断末魔
けえけえけっけ
誰にもわからないような
実にささやかな断末魔だった
ひどく蒸し暑い真夏の夜
扇風機の傍で目を閉じて寝ていると
飼い猫が毛玉を吐いている
けえけえけっけ
目を潤ませてアアもう苦しそうに
褐色の液体に濡れた毛玉を吐き出した
そんな時に電話があって
母が死んだと知らされた
あのとき聞いた飼い猫の声は
遠くの母の断末魔
けえけえけっけ
誰にもわからないような
実にささやかな断末魔だった
花火に向かう群衆はサイダーの泡沫
頭だけ光を反射し、同じ方向に向かっていく
泡沫は町のネオンを浴びて
色とりどりの表情を見せる
泡沫は立ち上るだけ立ち上って
水際に集まった
今日ここに集まった者たちの
色とりどりの恋心は
それこそサイダーの泡沫のごとく
弾けて混ざる二酸化炭素
嗚呼、その濃度が濃すぎるから
私は窒息してしまう
頭だけ光を反射し、同じ方向に向かっていく
泡沫は町のネオンを浴びて
色とりどりの表情を見せる
泡沫は立ち上るだけ立ち上って
水際に集まった
今日ここに集まった者たちの
色とりどりの恋心は
それこそサイダーの泡沫のごとく
弾けて混ざる二酸化炭素
嗚呼、その濃度が濃すぎるから
私は窒息してしまう
105歳は天井の染みを数えた
そりゃあもう長いこと床に伏しているから
天井との会話も慣れたものである
105歳は在りし日の夢を見た
柳の木の下にたくさんの仲間が集った日のことを
105歳は悲しみに暮れた
現世に置いて行かれる境遇を呪うこともあるのか
105歳は念仏を唱えた
全ての人間の救いを願って
105歳は天井の染みを数えた
幾つまで数えたかわからなくなったから
また最初から数えている
105歳の一日はそうして暮れていった
そりゃあもう長いこと床に伏しているから
天井との会話も慣れたものである
105歳は在りし日の夢を見た
柳の木の下にたくさんの仲間が集った日のことを
105歳は悲しみに暮れた
現世に置いて行かれる境遇を呪うこともあるのか
105歳は念仏を唱えた
全ての人間の救いを願って
105歳は天井の染みを数えた
幾つまで数えたかわからなくなったから
また最初から数えている
105歳の一日はそうして暮れていった
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