脳内

人生で初めて悩みが湧き出た
不思議といままで選択に迷ったこととはちがい
体は非常に健やかであった
それはそれは穏やかに
脳室の隙間を髄液とともに巡るのみで
悩みの繊維はほどけていかなかった
夜が明ける前に
わずかに白じんだ東の空を
都会のビルが黒く大きく切り取ると
私は窓に誘われて
窓からこうべをだらりと垂れた
この世はすべて重力に逆らって生きている
わたしはこれから逆らうことをやめるのだ
地面につきささり
頭下にひしめくアスファルト
はては地殻やマントルを超えて
地球の逆側のアスファルトに到達する
そうしたら入ってきた穴から
またもとのアスファルトへ
落ちる上るを繰り返すだけだ
それはわたしの脳室の繊維と同じく
球体をめぐるひとつである
ふと頭を東の空へ
上目づかいに目をやると
もうそらは赤くなっていて
昨日残したトマトを思い出した
わたしは冷蔵庫から冷えすぎたトマトを取り出して
指でつまんで一口食べた
そうするとそらは白くなっていて
気がつくと出かける支度をしていたんだ